1. 諸外国への原発輸出問題を考える際に必要な視点

(1)海外諸国に原発を輸出する問題は、日本国内で原発を続けるかどうか、またその判断はどういう根拠に基づくものなのかといことと切り離せない。
(2)日本の原子力政策は、その基本方針を定めている「原子力基本法」第二条において、「平和、安全、民主、自主、公開」の理念を提示している。原子力にかかわる政策判断は、これらの規範的原則に立脚しなければならない。
(3)これからのエネルギー政策は、福島原発事故の反省をふまえ、事故の歴史的意義を考えた上で、立案されるべきである。
世界史のなかで、四大原子力惨害を列挙するとすれば、広島の原爆、長崎の原爆、チェルノブイリ原発事故、福島原発事故になるだろう。四大惨害のうち三つまでも日本で発生しているのは偶然ではない。このような惨害を引き起こした根拠を分析しなければならない。

2. 現時点での政府のエネルギー政策を総合的に評価する必要

(1)4月11日に「エネルギー基本計画」(全78 頁)が閣議決定されたことにより、「日本国内で原発を継続し、海外諸国にも原発を輸出する」という方針で明確にされた。
(2)「エネルギー基本計画」の中に、「原発輸出」が位置づけられているので(同文書、48 頁)、エネルギー基本計画の方針が妥当かどうかを検証する必要がある。
(3)4月12日に市民シンクタンクである「原子力市民委員会」は『原発ゼロ社会への道-市民がつくる脱原子力政策大綱』(全238 頁)を発表した。この政策大綱は、テーマの包括性、アプローチの学問的総合性(理工系、人文学系、社会科学系の専門知識に立脚)、作成方法における公論の反映という点で、前例の無いものである。
(4)これら二つの政策文書を比較し、どちらが説得力をもつかを検討していただきたい。

3. 原発回帰、原発継続政策、その一環としての原発輸出政策の難点

(1)原発には安全性が欠如している
a. 過酷事故が発生した場合、破滅的な被害、国の存亡にかかわる被害を発生させてしまう。福島第1原発事故の経済的被害は、すでに13兆円を超える。
b. 技術的対策を追加しても、過酷事故リスクをゼロにすることはできない。
c. 「新規制基準」は安全が確保される基準とは言い難く、「世界最高水準」には程遠い(『脱原子力政策大綱』4章7節、160 頁、以下の引用はいずれも同文書)。
d. 過酷事故対策については、欧州加圧水型原子炉(EPR)に比べても、「新規制基準」は四点で劣っている(4章7節、163 頁)。
e. 原発輸出に関して、日本側の安全確認体制が構築されていない。日本が輸出した原発で過酷事故が発生したらどうするのか。
(2) 各種の放射性廃棄物問題が解決されていない 。
a. 高レベル放射性廃棄物については、少なくとも10万年間の安全を確保すべきであるが、その方法は見つかっていない(3章)。
b. 危険性の押し付け合いで、地域間、世代間の不公平をもたらす。紛争の種となる。
c. 日本学術会議は「回答 高レベル放射性廃棄物処分について」(2012年 9月)において、「総量管理、暫定保管、多段階の意思決定」を提案したが、最終解決ではない。日本が輸出した原発の放射性廃棄物を日本が引き取るのでなければ、 諸外国に「超長期の危険性」と「解決できない難問」を押しつけることになる。
d. 原発には経済的合理性が欠如。平常時における発電コストが、設備投資コストも含めれば火力発電などに対して劣っている。事故がおこればさらに悪化する(序章、12頁)。

4. 原発回帰と原発輸出の手続き面の難点

(1) 原発回帰を主張するエネルギー基本計画は民主的な手続きを無視している。
a. 国民世論は脱原発を望んでいる。福島原発震災以後、各種世論調査では「原発をやめるべき」が一貫して多数意見(終章、214頁、表6.2)。
b. 政権与党の公約違反。 2012年 12月の衆院選挙で、自民党は「原発依存度の低下」、公明党は「脱原発」を掲げたことと矛盾。
(2) パブリックコメントを無視している。約19000通のパブリックコメントの意見分布を示すべきである。それを隠しているのは、「パブコメの多数意見が原発回帰に反対であるから」だとしか考えられない。
(3) 原発輸出の方針は民主的な手続きを無視している。
a. 原発輸出は日本国内の民意に反する。時事通信の世論調査(2013年 6月)では、政府が海外への原発輸出を推進していることについて「支持しない」は58.3%、「支持する」は24.0%で、反対は支持の2倍を超える。
b. 原発輸出は輸出先の民意を無視している。例えば、トルコでは原発建設反対が世論の多数。IPSOS 社の「福島原発事故に対する世界市民の反応調査」(2011年 4月)によると、80%のトルコ国民が原子力反対を表明。
c. 原発輸出に関係する調査活動において、「公開」の原則を否定している。トルコ、ベトナムの原発事業化調査を、日本原電が総額39億6900万円で受注しているが、公開された報告書は黒塗りだらけで、適正かつ必要な調査がなされているのか疑問が寄せられている(毎日新聞、2014.4.6)。

まとめ

1. 福島原発事故にもかかわらず、原発回帰と原発輸出を推進しようとする経産省主導の政府の政策は、民意とかけ離れている。
2. 原発輸出政策は、過酷事故の可能性、高レベル放射性廃棄物という点だけからみても、 諸外国の国民に危険負担を押しつけるものであり、日本と当該諸国民の真の友好関係と利益を損ない、将来、それらの負担をめぐる紛争の恐れを伴う。
3. 原発輸出は、社会的利益を犠牲にしながら、特定の「業界利益」の追求に政府が便宜をはかっているという性格が強い。
4. 日本および諸外国の経済的発展やエネルギー問題の解決のためには、省エネルギー投資や、再生可能エネルギーの投資を優先するべきである。

(ふなばし・はるとし 法政大学社会学部教授/同サステイナビリティ研究所副所長/原子力市民委員会座長/日本学術会議連携会員)