ハンガリーに来て早半年。私は今Balassi Intézetという語学学校にて10ヶ月のプログラムでハンガリー語を勉強しています。「なぜハンガリー語なのか?」。初めて出会った人々に、何回この質問を聞かれたことでしょうか。正直なところはっきりとした理由はありません。ハンガリー人の友達がいたり、ハンガリーに行ったことがあったわけでもありません。私の場合、ハンガリー語を選んだのは本当に偶然なのです。大学では何か外国語を学びたいな、とただ漠然と考えていた高校生の頃、オープンキャンパスへ行きました。専攻語ごとに教室で説明会が行われており、なんとなく入ってみた教室がハンガリー語専攻でした。ハンガリーについて何ひとつ知らなかった私ですが、ほんの1時間の間に見聞きしたハンガリーの風景や文化に心をひかれました。なぜだか分からないですが、ここで勉強したい!と思ったのです。それから今に至ります。
 実は、今回、私にとっては2回目のハンガリーです。1年生の時に、デブレツェン大学で2週間のサマースクールに参加していました。まだハンガリー語を始めて3ヶ月。挨拶程度しかできないレベルでしたが、とりあえず行ってみよう!と思い、応募したのを覚えています。今まで写真だけで見ていた景色を実際に見たときは、感動しました。そして、また絶対ハンガリーに戻ってこようと心に決めてから2年が経ち、今ここで勉強しています。
 バラッシでの授業は全てハンガリー語で行われます。午前中は言語、午後からは歴史や地理、文化などハンガリーについての様々なことを学びます。初日から大量のハンガリー語がふりかかり、ついていくので精一杯。日本で2年半勉強してきたはずなのに、こんなにも出来ないものか、と自分の力の無さに落ち込みました。問題を解いてもみんなよりできなかったり、意見を求められた時に上手く話せなかったりすることが続
き悔しくて、最初の3ヶ月ほどは部屋に戻ってから泣くこともよくありました。月日が経つにつれて、「本当にハンガリー語は上達しているのか?」と焦りを感じることもしばしば。しかし泣いていても何も変わりません。言語を上達させるにはとにかくやるしかないと思いました。
 そこでまず、積極的にハンガリー語を使う機会を作りました。ハンガリー人の友達と会って会話したり、ハンガリー語で映画を見たり本を読んだり、ハンガリー語に触れる時間を増やしました。また、この単語の意味が分かるようになったとか、今日はいつもより自分から話すことができた、とかどんな小さなことでも良いから日々自分の成長を見つけることにしました。小さい喜びが勉強のモチベーションにつながりました。そのおかげか、セメスターも後半に入った今となっては、先生の言っていることも前期より理解できるようになったし、授業が楽しく感じるようになりました。
 振り返ってみると、悔しいという気持ちを持てたことは良かったのかもしれません。こんな偉そうに書ていますが、私のハンガリー語はまだまだです。もちろん今でもしんどいことはあるし、必死にしがみついている状態ではありますが、それでも少しずつ余裕がもてるようになったと思います。私のクラスには3人のセルビア人、ポーランド人、ブルガリア人、中国人がいます。みんな勉強熱心なので、私も刺激される日々です。授業中分からないところがあればお互いに助けあったり、時には一緒に出かけたりご飯を食べに行ったりもします。みんなで部屋に集まってテスト勉強をしたのも良い思い出です。
 ここまで勉強の話ばかりを書きましたが、もちろん留学生活はそれだけではありません。休日には街中を散歩したり、カフェに行って友達とおしゃべりしたり、長期休みを利用して近隣の国々へ旅行にも行きました。ヨーロッパの美しい街並みや風景を見たり、その国ならではのものを食べたりするのは楽しいです。しかし、帰りの列車や飛行機でハンガリー語が聞こえてくるとなんだか安心するし、ドナウ河に架かる鎖橋やライトアップされた国会議事堂を見ると、やっぱりこの景色が一番好きだなあとハンガリーに戻ってくるたびに実感するのです。
 さて、そんな私の留学生活も残り3ヶ月を切りました。終わりが見えてくるにつれて毎日が今まで以上にものすごいスピードで過ぎているような気がします。留学生活を通して学んだことはハンガリー語だけではありません。ハンガリーの生活や文化を実際に目で見て肌で感じ、考えさせられたことも多くあります。ここでの経験、出会った人々全てが私にとってかけがえのないものになりました。留学が終われば、日本で残りの大学生活が1年半待っています。どんな仕事に就くか、どこで何をするかはまだ模索中です。しかしこの留学生活と大学で学んだことを生かして、少しでもハンガリーに携われるようなことが出来ればと考えています。そしていつかまたハンガリーに戻ってこよう、と2年前と同じように心に決めました。
 残りのハンガリー生活、まだまだたくさんのことを吸収して、最後まで悔いのないよう1日1日を大切に過ごしていきたいと思います。

(こずみ・なおこ)