基本法改正案と「ストップ・ソロス」法案の成立

オルバーン第4次政権が発足し、6月は非常に重要な法律を2本、国会で成立させた。1つは基本法第7次改正(憲法に相当)、もう1つは、ハンガリー系の米著名投資家ジョージ・ソロス氏の名前を取った「ストップ・ソロス(ソロスを止めろ!)」法案。いずれも、第3次政権(2014-2018年)では、議会で重要法改正に必要な3分の2超(圧倒的多数)の勢力を持っていなかったため実現させられなかったこと。4月の総選挙で圧倒的多数を得たため、早々に法整備に取り組んだ。左派リベラル系野党は、批判はするものの、与党の大きな勢力の前では無力である。
基本法の改正内容は以下の通り:
 1. 外国人(移民)の集団移住の禁止
 2. 国家機関によるキリスト教文化を守る義務
 3. 政治家の私邸前でのデモ禁止
 4. 路上生活(ホームレス)の禁止
 5. 行政裁判所の設立

移民集団移住の禁止は、ハンガリーに対してEU等が受け入れ強制することを基本法で明確に拒否するもの。ハンガリー領土内での外国人受け入れは、ハンガリー当局が個別に判断する。(EU市民など移動の自由の権利がある外国人は除く)今回の改正案には、野党の極右Jobbik(ヨッビク)も支持に回った。オルバーン政権は2016年秋、移民受け入れの是非に関する国民投票後にも同様の基本法改正を試みたが、その時にはJobbikの支持が得られず実現しなかった。

国家機関によるキリスト教文化を守る義務は、当初の政府が提出した改正案には含まれていなかった。しかし途中で与党議員が突如として盛り込むよう提案。

路上生活(ホームレス)の禁止も与党議員の突如とした提案で盛り込まれることになった。
 このように、オルバーン政権では、非常に重要で、本来ならば慎重で精密な準備や関係者との協議が必要な法案を、政府が出さずに、無名議員がいきなり提出し成立することが散見される。審議の時間もほとんどない。それも政権の一つの「作戦」であろう。

キリスト教文化に関しては、国家機関はそれを守る義務があると規定。その理由として、「キリスト教文化なしでは欧州、またハンガリーは存在しえない。 (中略)欧州では現在、伝統的文化の変革が起こりうる途中にある」と説明している。
 2012年に発効になった基本法でも、キリスト教に関しては序文で触れられており、「キリスト教が国家を維持保存にはたしている役割をここに認める」とした。当時、このキリスト教だけ名前を挙げ含めることは大きな議論になった。しかしその直後に「国内の様々な宗教的伝統の価値を認める」とすることで、他宗教を否定しているわけではないと政権側は説明してきた。

 第7次改正は、序文ではなく、その後の総則的規定を定めた章の第R条で扱う。キリスト教の役割を「認知する」だけではなく、「それを守ること」を「国家機関」に「義務付けた」という点で、これまでの2歩も3歩も進んだといえよう。この章は、ハンガリーの正式国名、公用語、首都などを定める国家として根幹的な事柄、原理原則を記している。R条には、「基本法はハンガリーの司法制度の基礎である」、「基本法はすべての者が従わなければならない」としており、これと同レベルでキリスト教文化の保護が定義されていることからも、重みが伺える。オルバーン首相が現在、「移民反対」とセットで声高に掲げている「欧州でのキリスト教文化を守る」に合致するものである。

政治家の私邸前などでの集会禁止は、「(本人や家族の)私生活を冒す権利はない」とするもの。しかし、集会の権利を脅かすものと懸念されている。

基本法改正案には、行政裁判所の設立も盛り込まれた。最上位の裁判所は、クーリア(最高裁)と同じレベルになる。行政事件や政府機関による決定を不服として提訴されたケースを扱う。
 設立案は2016年に浮上。政府は当時、行政関連の訴訟の迅速な処理には、こうした裁判所の設立が不可欠と主張。しかし、野党や国内の政府に批判的なメディアは、政治的に機微な問題や、多額のカネが関与する横領事件を新裁判所に回し管理しやすくするのが真の意図と分析した。
 司法省が2017年夏に明らかにした裁判官の選出方法も、懸念を呼ぶ原因になっていた。選出はポイント制で、省庁など行政機関出身者の方が、裁判所で裁判官補佐の経験を積んだ者の倍になるというものだった。同省は、行政関連の係争では、行政や関連法の専門知識を要するためと説明。しかし反対派は、政権内の「忠臣」ばかりが登用されことになると疑念を強めた。政府与党は、行政裁判所では司法の独立性は堅持されると強調している。今後、裁判官の選出方法、実際の人選、具体的な訴訟の行方が注目される。

ストップ・ソロス法案成立

「ストップ・ソロス」法案は、移民大量流入の「ソロス陰謀説」を元にして作り上げられた。(この名称は、政府が自らつけた。) 政権の主張は、2015年秋の移民ショックは、「開かれた社会(オープンソサエティ)」を唱えるジョージ・ソロス氏が欧州でそれを実現させようとしたため、というもの。ソロス氏は欧州の左派リベラル系の政治指導者やNGO(非政府組織)らにカネをばらまき、大量の人々を中東やアフリカから流入させていると主張している。
 政府は、これにより、キリスト教文明の地である欧州が壊される、テロリスクが高まる、欧州の安全保障に関わる、だからこの動きを止めなければならないとする。そのためにNGOが「合法的な」活動を事実上できなくするのが狙いである。ストップ・ソロス法が施行されれば、NGOらによる情報提供、法律相談、食糧提供といった活動は刑法上の犯罪になりえ、禁固刑最長1年の対象にもなりうる。

 政府は一方で、2019年税制改正包括法案で、移民支援活動を行うNGOに対して、25%課税する計画を盛り込んだ。税収の使途は、国境警備に限定すると言う。税は、選挙前は税制改正案ではなく、ストップ・ソロス法案の原案に含まれており、「外国からの支援が国内よりも多い団体」に課すことになっていた。しかし、今回は国内外からの資金援助の額に関係なく、移民支援活動を行う団体が対象になる。
 この法案は、NGOはもとより、ザイド・フセイン国連人権高等弁務官(OHCH)なども懸念を表明。さらに、ベニス委員会(欧州評議会下の憲法諮問機関)は、廃止を求めた。

こうしたオルバーン政権の動きに、欧州議会ではFideszが属すEPP(欧州人民グループ)でも懸念や批判が強まっている。オランダの政党「キリスト教民主同盟(CDA)」は、EPPは超えてはならない「レッドライン」を設けるべきで、Fideszがこれを越えたままであればEPPメンバーシップを一時停止すべきとする動議を採択した。

Fideszは当然のことながら反発。一方で、オルバーン首相は移民政策ではヴィシェグラード4か国(ハンガリー、スロバキア、チェコ、ポーランド)では結束が固く、オーストリアやイタリアも考えをともにしていると喧伝している。また、「キリスト教民主主義」を前面に打ち出し、来春の欧州議会選挙ではむしろEPPで主導権を握ろうと野心を膨らませているようである。

その他のニュース

ビアバイク、セグウェイなど歩行者専用区域で禁止

ブダペスト市5区では6月半ばから、歩道、歩行者専用道路や区域でのビアバイク、セグウェイなどの通行を禁止となった。その他、人力車、電気自転車なども禁止。

5区は国会議事堂、イシュトヴァ―ン大聖堂、ヴァ―ツィ通りなど観光スポットが多くあり、近年は観光客向けのセグウェイらが大幅に増加。一方で、市民らからは歩行が危険と、多くの苦情が寄せられていた。違反した場合は、最高5万フォリントの罰金が科される。

ビアバイクはその他、6区、7区、14区でも禁止になった。

ブダペスト市内の路上駐車料金、値上がり時間延長も
ブダペスト市議会は、7月半ばからの路上駐車対象範囲の拡大、料金値上げを決定した。

・5区の駐車料金は、ほとんどの場所で525Ft/時間に値上がり
・2区、12区の一部で、現在平日18時まで有料の路上駐車区域を20時までに延長
・14区(ズグロー地域)、11区(ウーィブダ地域)の多くで有料化

水球日本代表、スーパーファイナルで4位
ブダペスト市で開催されたFINA水球男子ワールドリーグ・スーパーファイナル2018で、日本代表「ポセイドンジャパン」は4位となった。
日本は、Aグループ予選(総当たり)では0勝3敗だったが、決勝トーナメントでBグループ首位の米国(3勝0敗)を下す快挙を成し遂げた。その後、準決勝でハンガリーと対戦。途中3点差でリードするなど、ハンガリーを大いに苦しめたが最後は破れ、決勝進出は叶わなかった。最終的には4位で終了した。

野生の熊が出没

国内で野生の熊が出没し話題になった。熊は5月下旬にスロバキアからハンガリー入り。その後1日20-30キロメートル南下し続け、合計300キロメートル前後を移動。セルビア国境近くのセゲド近隣で捕獲され、セゲド動物園が預かった。

熊は当初2-3歳のオスと見られており、いつの間にか「ロビ(ローベルト)」の愛称が付けられることに。しかし動物園で、メスで年齢も推定10歳以上と判明した。

熊は捕獲されてから数日後、再びスロバキア国境そばの人里離れた森に放された。しかしその後、近くの村で熊が確認された(同じ熊かは不明)。また、国内ではその他の場所で母熊と子熊なども確認されている。