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満喫した南アフリカ W杯
盛田 常夫

 

 2010年W杯は楽しめた。日本チームが活躍するとしないとでは、観戦の力の入り方が違う。しかも、予選 リーグ敗退予想を覆して、「予期せぬ活躍」を見せたから尚更だ。前回のドイツ大会では初戦の豪州戦で、終盤に守備が崩れ、ドタバタ状態で逆転負けしてか ら、その後の試合を観る興味を失ってしまった。あの脱力感は今も記憶に残っている。
  大会前の親善ゲームで散々な状態だったから、日本チームにまったく期待していなかった。とにかく「馬鹿負け」だけはして欲しくないというのが本音だった。 世界ランキングが日本より低いハンガリーでさえ、日本チームをまったくリスペクトしていない。これで大敗などしたら永遠に日本は見下される。今でこそ低迷 しているが、1950年代から1960年代にかけてのハンガリーは世界のトップチームだった。各種のナショナルチームの対戦で、日本はハンガリーに勝った ことがない。日本にプロリーグがあることすら知らない人がほとんどだ。カメルーンに勝った後ですら、「日本の選手はプロなのか」と聞かれる始末だから、日 本、いやアジアのチームなどハンガリーにおいてすら問題外なのである。

 
 私が毎日通っているヘリア・ホテルのフィットネス・クラブに は、五輪メダリストがたくさん通っている。話題は常に各種スポーツ。「日本は守ってばかりで、攻めない」という人が多い。日本にとって最初のW杯 (1998年)だったフランス大会の時も良く言われた。「パスを繋ぐのはうまいが、攻めて点を取らないと勝てないのだよ」と。ジャマイカとの消化試合で中 山ゴンが1点取ったが、その程度で日本の印象は変わらない。
  2002年の日韓大会の初戦のベルギー戦も、前半はフランス大会の延長のようだった。ハンガリーのコメンテーターは、「攻めない日本に勝ち目はない」と定 見を披露していた。しかし、後半になってゲームが急展開した。鈴木隆行が果敢に相手ボールを奪ってゴールを決めてから激しい点の取り合いになった。これで 日本チームが吹っ切れた。さすがにハンガリーのコメンテーターも後半の攻防を高く評価せざるをえなかった。この後、日本はロシアとチェニジアに勝ちリーグ 戦を突破したが、鈴木隆行のあの一発はフランス大会から続いていた日本チームのモヤモヤを吹っ切る歴史的なゴールだった。
  しかし、如何せん、続くドイツ大会の対豪州戦が日韓大会の成果を帳消しにしてしまった。為す術もなくあっという間に3点を献上してしまい、「やっぱりアジ アは弱い」、「日韓大会の韓国は審判にアシストされ、日本はホームの利を生かしただけ」という評価に逆戻りしてしまった。
 
 デンマーク戦前、ハンガリーのコメ ンテーターは「日本はオランダ戦のように、守りに守ってカウンターに賭けるだろう」というものだった。しかし、戦前の予想に反して、前半に本田と遠藤の二 本のフリーキックを決めた日本は、デンマークを圧倒する攻撃で会心の勝利を得た。この日の日本チームは最高のコンディションにあった。それに運まで味方し た。二本続けて難しいフリーキックが決まる確率はどれほどだろうか。百回トライしても数回しかないだろう。それがドンピシャで決まった。個人競技でも団体 競技でも、「何をやってもうまく決まる」時がある。それは最高のコンディションに、運まで味方する状態なのだが、まさに対デンマーク戦の日本はその典型 だった。
  フィットネス・クラブの友人たちも、「あの2本は今時のW杯でもっとも美しいフリーキックだった」と賞賛してくれた。本田のゴールを「たまたま」と強弁す るTVゲストもいたが、別のコメンテーターが「本田は欧州CL(チャンピオンズ・リーグ)でも同じキックを成功させている」と即座に反論していたのが印象 的だった。この2本のキックは日本のW杯歴史に残るゴールだろう。ドイツ大会で地に落ちた日本の評価を引き上げるのに十分な二発だった。
  役割がはっきりしていて、日頃から戦術練習を行っているクラブチームと違って、ナショナルチームの息の合わせ方は難しい。今時のW杯でアフリカのチームの 多くが一次リーグで敗退したが、とくに世界的なスター選手がいる国は予想外にもろかった。チームとしての成熟度が大きく勝負を左右した。ドイツ大会の日本 チームも中田とそれ以外の選手との組織的な意思疎通や連携が不足していたが、監督がそれを統率することもできなかった。今大会では最初から期待されていな かった日本チームが、個を捨てて組織に賭けたことで道が開けた。「瓢箪から駒」のような展開で日本は一次リーグを突破した。
  ベスト4に進んだチームと比較すると、日本の課題が見えてくる。最大の違いは、攻撃の厚み。今の日本チームはチャンスの時の波状攻撃ができない。パワーと スピードのあるFWが欲しい。だから、せめてパラグアイ戦の延長時間帯は玉田でなくて、森本を試してもらいたかった。一次リーグを突破した岡田監督を誰も 批判しなくなったが、あの交代枠はベテランの玉田ではなく、フレッシュな森本を使ってもらいたい思った人は多いだろう。練習パートナーでしか帯同できな かった香川真司の過小評価も悔やまれるところか。結果論かもしれないが、連日8万人もの地元大観衆を前にドルトムンドで大活躍している香川を見ると、愚痴 の一つも言いたくなる。 それはそれとして、南アフリカW杯は楽しませてもらった。W杯後、本田に続いて、香川や長友がドイツとイタリアの本場で活躍して いるのは心強い。彼らの活躍もあって、今までそれほど評価されていなかったJリーグの実力が見直されている。私個人の最大の収穫は、ヘリア・ホテルの フィットネス・クラブの友人たちに余計な言い訳をしないで済むことだ。
 
(もりた・つねお ハンガリー立山研究所)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.