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オートバイのある暮 らし
工藤 亮一

 
 オートバイ、単車、モーターサイク ル、バイク。日本では様々な呼び方をされるこの乗り物に魅了され早や四半世紀。私のオートバイ生活もこの11月で26年目に突入し、26年目のオートバイ 生活はここハンガリーで迎えることになりました。日本ではとかくネガティブなイメージのあるオートバイですが、私にとってはかけがえの無いモノであり、一 人でも多くの皆さんにその魅力を知っていただきたいと筆をとりました。
  私がオートバイに出会ったのは、15才の春のこと。当時はサッカー部に所属しておりました。10才よりスポーツ少年団にてサッカーを始め、小・中学生の頃 はサッカー一色で、高校選手権に出場したいという夢を抱きながらも、高校ではなく工業高専に進学しました。そこで幸か不幸かオートバイと出会ったのです。 当時、私の通う高専では歩行大会なる全校生徒参加のイベントあり、近くの山に歩いて上るだけというものでしたが、サッカー部には現地解散後、学校までの 13kmの道のりを走って帰るという追加の課題がありました。ゴールキーパーというポジションは瞬発力が要求されても持久力は要求されません。私は持久力 に全く自信がありませんでした。案の定、5kmも走らないうちにバテてしまい歩くことになりました。いつまで経っても帰ってこない私を心配した4年生の先 輩が、愛車のスズキGSX400FSインパルスを駆って私を迎えにきてくれ、私をタンデムシートに乗せ、学校まで連れて帰ってくれたのです。当時は「あ〜 良かった、助かった」ぐらいにしか思いませんでしたが、そこから沸々とオートバイに対する憧れが膨れ上がりました。
  それから半年後、16才になった私は原付免許を取得しました。同時に新聞配達を開始しました。当時、姉が所有していたホンダイブというスクーターを駆って の配達です。このアルバイトで貯めたお金で、私は愛車第一号となるヤマハRZ50を手に入れ、そこから25年以上続くオートバイ生活が始まりました。近場 のワインディングを「攻める」ことが好きだったので、ツーリングにはそれほど興味がありませんでしたが、3ヶ月に一度くらいは友人らと出かけていました。 九州出身なので熊本や大分方面へはよく日帰りで行ったものです。しかしなぜか今もって思い出すのは、雨が降ってきた時のこと、すごく寒かったことなど辛い ことばかりです。逆に、天気が良くて快適だった時のことはほとんど思い出せません。不思議なものです。
  オートバイは雨風をしのいでくれる屋根がありません。気温が下がれば寒い思いをしますし、雨が降るとヘルメットが曇って視界が悪くなり、また路面が滑りや すくなるので運転には細心の注意や緊張が要求されます。しかしそれでも乗りたいと思わせる「何か」があります。
  私が住んでいた中部地方から九州へオートバイに里帰りした時の話です。奈良県に入った途端、とても激しい雨に遭遇しました。レインウェアを着る暇も無くビ ショ濡れです。4月末の頃でそれほど寒くなく、そのまま走り続けました。走り続けているとそのうち雨はあがり、晴れ間も出てきました。濡れていた服もだん だんと乾いていき、今度はとても心地よい状況に変わっていきました。その時の嬉しさは15年以上経った現在でも鮮明に思い出されます。最初から天気が良け れば、雨に遭遇することが無ければ、私はこの15年以上も忘れることができない嬉しさを感じることはできなかったでしょう。何となくオートバイに大切なこ とを教えてもらった経験でした。
  オートバイでのツーリングは新たな出会いをももたらしてくれます。見知らぬ人と会話する機会に恵まれます。もちろん名も知らない者同士ですが、旅先での見 知らぬ人との会話はその旅に彩りを与えてくれます。つい先日もハンガリー国内でのツーリング中、道端で停車し休憩していたところ、見知らぬライダーが私の 横に停まりました。彼はホンダのオートバイに乗っており、「日本のオートバイは品質が良い」、「いい仕事をしている」と言ったようなことを私に言い、「ど こから来たのか?どこに行くのか?オートバイは2気筒に限る(彼のオートバイも私のそれも2気筒)」などと会話を交わし、去っていきました。もう二度と彼 に会うことは無いかも知れません。しかし私の記憶に彼の存在は残り続けます。なんて素敵なことだろうと思ってしまいます。
  ハンガリーのライダーは同じライダーに対しとても好意的です。ライダー同士は道ですれ違う時に互いに挨拶をします。日本ではピースサインと呼ばれますが、 日本ではこのサインを交わすことが稀になってきていました。しかしハンガリーでは違います。ほぼ9割方のライダーがサインを交わします。日本のようにピー スでは無く、左手をハンドルから離して手をあげる程度ですが、彼が自分を同じライダー仲間として認識していることが十分にわかります。ハンガリーは熱いラ イダーが多く、私もしばしば物凄いスピードで抜かれることがありますが、恐らく「ふわわ」km/hを超えるスピードと思われますが、そんな時でも追い抜く 間際に私に挨拶をくれます。何て素敵なことだろうと思います。
  いいことばかりを書きましたが、もちろんオートバイには転倒,事故による高いリスクがつきものです。私自身、転倒経験が何回かありますし、悲しい経験をし たこともありました。しかしリスクの高さもオートバイの魅力の一つではないかと思うようになってきました。高いリスクを認識した上で自らの操作技術、状況 判断力を高め、いかにしてこれを回避し、その先にある素晴らしい何かを手にするか。そうしたことも魅力の一つだと思います。
  ハンガリーは確かに日本に比べて事故リスクが高いと思われますが、オートバイ生活26年目を迎える私は、ここハンガリーでまた新たなオートバイの魅力を見 つけるとともに新たな出会いを探す為に、春の到来を心待ちにしております。
(くどう・りょういち イビデン・ハンガリー)
 
 

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