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妃の街ヴェスプレー ム便り その5 
ヘレンドでハイキング&ハンティング
森田 友子

 
   ヘレンドと 聞けば、大半は、世界的に有名なヘレンド陶磁器を連想するだろう。でも、我家では、ハイキングかハンティング。ヘレンド社がこの地を選んだ理由が、窯に必 要な薪の量と質だっただけあって、ヘレンド村の奥には豊かな森が広がっている。
 ヴェスプレームからヘレンド村までは、車で約10分。村を抜けると、すぐに美しいバコニ森の山道に入る。バコニは、ピクニック気分でいつでも気が向いた 時に訪れられる森。急斜面、断崖絶壁もあるものの、日本の山歩きのような重装備は不要。

 我家の普段のヘレンドコースは、野道の脇にあるベリーを頬張り、イバラやイラグサに気をつけながらのハイキ ング。ゆるやかな丘を越え、ブナの林に入り、鳥や虫を見ながら森林浴。主人は、こどもたちに、「森は自然の教会、静かに歩くこと」と教えているから、鹿や 猪、キツネや野ウサギと遭遇することも少なくない。冬、集団で移動する鹿は大迫力だし、春、ウリ坊たちがお母さんイノシシの後をついていく姿は可愛らし い。秋の鹿の繁殖期の唸り声も神秘的。双眼鏡は必需品だが、きのこ狩り、山菜の季節はカゴを、雪の季節はソリを持参する。主人は、銃を片手にでかけること もある。これが、ヘレンド特別コースのハンティング。ヘレンドは、主人の所属するハンティング協会の狩猟領域でもあるから。
 狩猟は、昔は、貴族・王族の特権階級や富裕層にしか許されない行為だったが、今は、一般市民にも門戸が開かれている。ただ、協会に入会するには、一応の 審査・試験がある。入会希望者にも、かなりの覚悟が必要。ちょっとした趣味にしては高額だし、多くのボランティア活動が課され、まさに金と暇の両方を必要 とされるから。狩猟学という学問があり、森林・林業技術者とも区別された個別な専門家も存在するが、免許は一般試験で取得できる。
 しかし、古代から営まれていた狩猟は、現代社会では突然に特別行為となってしまい、これに対する意見は、神聖/残虐の両極端に分かれる。前者は、自然に 親しみ、敬い、森林や野生動物についての深い知識を持っている人が感じ、後者は、動物愛護家、標的を撃つ行為を楽しむ人や密猟者と接触のあった人、もしく は、狩猟について無知な人が、なんとなく持つ感情だと思う。
 狩猟自体は、狼などの肉食獣がいなくなった今、森の均衡をとる為に必要な業務で、森林や農作物被害防止にも猟師たちが働く。だから、ハンティング協会の 仕事は、野生動物を管理・保護し、森林や農作物を野生動物から守ること。毎年、野生動物個体数調査が行われ、各領域の撃つ頭数が国で決定される。この頭数 は、協会にとって、撃つ義務であると同時に、協会を維持する為の撃てる権利でもある。撃って頭数抑制する一方、水飲み場を作ったり、冬の間、餌や塩を与え たり、病気が蔓延した場合の対策も考えなければならない。森林や農作物に損害が生じた場合は、ハンティング協会が賠償することになるので、被害を最低限に 抑える為、やれ柵だ、やれ見張り台だ、と日曜大工仕事がざらにあり、実りのシーズンは、作物を交代で見張る仕事もある。

 さて、この様に膨大な義 務と責任が課せられているハンティング協会だが、どのように運営されているのだろうか。帳簿の支出項目は、狩猟権利賃貸料、冷凍コンテナ・管理人費、見張 り台、電流柵等の維持費、冬の餌代、そして、野生動物の起した被害の損害賠償金。しかし、この莫大な費用は、会費、野生肉、ハンティングガイドの収入のみ で賄われている。毎年全国平均15%以上の赤字経営だそうだ。
 それでも、狩猟システムは維持されている。ヨーロッパでは、ハンティングが、ひとつの文化として存在しているからだろう。狩猟本来の目的は薄れ、自然と 親しむ方法、自らの知識や判断力を試す、または、猟友や猟犬、馬との連携を楽しむスポーツのような行為として行われている。中でも、ハンガリー・オースト リア・ドイツの中央ヨーロッパでは、トロフィーの文化が大きな部分を占める。
 
 この地域は、東側の大きくて長い角 の鹿と西側の小さいが枝分かれの多い鹿が交わる場所で、ポイントの高いトロフィーが集まっている。
 戦利品としての鹿の角は、重さ、大きさ、長さ、太さ、両角の幅、色、枝数によって評価されポイントが付けられる。獲得したトロフィーには、全てに通し番 号とポイントが記され、一定のトロフィー費用も支払わなければならない。これは、角自体の価格ではなく、撃った行為に対して支払われるもので、最高水準の ものを仕留めてしまった時は、国宝となり、私物化できないこともある。料金は車一台分に相当することもあるので(撃つ寸前には、必ず専門ガイドに撃ってい いかどうかの判断を得るのだが)、トロフィーの金額も確認することをオススメする。

 この品質管理のシステムはおもしろくて、集団で試みるブリーダーのような仕組みになっている。シーズン規制 は、トロフィー基準も配慮し組まれている。猟師たちは、規定頭数内で、「不良品」を撃ち、いい角になる子孫を残すようにしなければならない。この判断には 熟練を要す。角は毎年生え変わるごとに、前に突き出て、重心は根本に下がっていくので、頭を垂れる姿勢や角の枝分かれの位置などが判断材料だそうだ。
 特異な価値観はさておき、狩の方法は、おおまかに分けて四種類。1.見張り台で待つ、2.追いたて役と仕留め役を決めての猟、3. 馬車・馬ゾリの狩り、そして主人の一番好きな4.音や風向きに気をつけ、一人で静かに森を歩いて動物を探す方法。確かに、忍び足が上手い。

 冬によく行われる、多人数で四方から取り囲んで獲物を追いつめる巻狩りなどでは、特有なセレモニーも存在す る。鹿、猪、きじ、うさぎ、どんな狩りでも大抵同じで、明け方、始まる合図にホルンが吹かれ、あいさつ、説明がされる。もちろん狩り前日にも会合は開か れ、まるで軍事計画のような配置図、各自の射程距離・方角の範囲地図が渡されている。これらの手順は全て法律で決まっていて、事故が起きた場合は、この辺 の条項も調査される。
 夕方の終了パーティーでは、広場に、決まったポーズで獲物が並べられ、四つ角には焚き火。獲物たちは、最後の食事という意味で、緑の枝が口にくわえさせ られ、もみの木の枝で額縁されている。片側に狩人(ゲスト)、反対側にガイド猟師が並び、ホルンの演奏で式が始まり、帽子を取り敬礼する。
 帽子には、血液のついた葉枝やキジの尾羽が飾られていることもある。葉枝は、ゲストが鹿を仕留めた際、ガイドにより枝先に獲物の血液がつけられ、それを 帽子に差して祝われた印。初めて猟師の仕事を果たした(獲物を仕留めた)狩人が、獲物の上に伏せ、初心忘るべからず、と木枝でお尻を叩かれるパフォーマン スもあるが、ひとつひとつが長い歴史の中で出来上がった儀式で、自然への敬意が払われている。
 一方、日常の作法はごくシンプルで、銃を準備し、狩日誌に、名前と時間、(協会領域内の)これから狩に行く区域を記入し、森へ入る。仕留めたら、内臓だ けはその場でさばき、頭と足と一緒に森へ返し、獲物に通し番号のタグを付け、冷凍コンテナへ運ぶ。持ち帰りたい場合も同じで、一度冷凍コンテナで計量、登 録し、肉を購入してから自家用冷凍庫へ入れることができる。
 主人は、日本でも猟を経験したことがあって、日本らしい仲間を味わうことができたいい思い出、と言っている。そして、もし、ここで経験したい方がいらっ しゃれば、いつでもお待ちしています、とのことです。

(もりた・ともこ ヴェスプリーム在住)
 
 

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