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名画との出逢い:スペイン美術館巡り
小松 裕文


 近くて遠かった国・スペインを訪れる機会に恵まれた。嘗てハンガリーに駐在されていたご夫妻の招きで実現した。スペインは1985年に訪れたことがあるが、プラド滞在はたったの2日間だった。今回の旅行は美術館巡りとガウディ建築の見学が目的。
 訪れた美術館はプラド美術館、ソフィア王妃芸術センター、ティッセン・ボルミネッサ美術館、王立サン・フェルナンド・美術アカデミー、王宮内ギャラリー(以上マドリッド)、カテロダル内聖具室、サンタ・クルス美術館、サント・トメ教会(以上トレド)、カタルーニア美術館、ピカソ美術館(以上バルセロナ)。プラド美術館の所蔵品は絵画だけでも8000点を越え、有名な作品が目白押しだ。
 ヒエロリスム・ボッシュ(1450-1516年)の「快楽の園」もその一つ。いつも作品の前は人だかり。三枚のパネルからなる三連祭壇である。左から「エデンの園」、「快楽の園」、「地獄」と名づけられている。シュールレアリズムの源流の画家の一人。現存する作品の数はそれほど多くなく、約30点。ウイーン美術アカデミー美術館の「最後の審判」の祭壇画の他、ウイーン美術史博物館、ミュンヘン・アルテピナコテック、ロンドン・ナショナルギャラーで小品を見たことがあるが、今回のプラド美術館の作品は見ごたえ十分だった。
 フラ・アンジェリコ(1395-1455年)の「受胎告知」に出逢えたのも嬉しかった。作者はフィレンツエのサンタ・マリア・デレ・グラッツィエ修道院の受胎告知を描いた作者と同じで、この絵はフィレンツ北部のフィエゾーレのサン・ドメニコ聖堂の祭壇画として描かれたもの。  「モナ・リザ」があったのは驚きであった。ルーヴルの本物よりは鮮やかで明るいが、雰囲気はまったく同じ。バックの景色も本物よりは鮮明で輪郭もはっきりしている。2012年2月1日に修復を終え、始めて一般に公開された。プラド美術館の公式発表では、現存する模写作品では最も古く、ダヴィンチ本人のアトリエで制作されたものだが、ダヴィンチ本人はこの制作に関わっていない。3月26日からルーヴル美術館の本物の横に並べて陳列されたようだ。
 アルブレヒト・デューラー(1471-1528年)の自画像に逢えたのは懐かしかった。2012年6月、ニュルンベルグのゲルマン博物館の「デューラー展」が思い出された。メインの展示としてデューラーの自画像が3点、22歳の自画像(別名アザミを持った自画像=ルーヴル美術館)、 27歳の自画像(プラド美術館)、1500年の自画像(ミュンヘン・アルテピナコテク)が並べられていた。今回観たのはその中の内の一点。
 特別展「Martin Rico展」が開かれていた。それまで彼の名前を聞いたことがなく、未知の画家だった。覗いてみる程度の気持ちで会場に入ったが余りの素晴らしにじっくり鑑賞する羽目になってしまった。
   Rico(1833-1908年)はスペインの風景画家の中で最も重要な画家の一人、国外にも知れ渡っている。彼の作品の色(青い空、碧い海、濃淡のある緑)はその環境で生活しているものだけが描けるもの。又彼の作品の多くに人物がさりげなく描かれているが、それが極めて現実感を覚えさす。「学校の中庭」、「クロイエスで洗濯する婦人」は最も魅かれた作品である。子供やご婦人の話し声が聞こえてくるような雰囲気が醸し出されている。
 ソフィア王妃芸術センターは1900年からの現代美術を集めた美術館。パリ万国博(1937年)のために描かれたピカソの「ゲルニカ」はこの美術館で最も名高い。作品の前はいつも多くの観客が集まっている。数年前までは写真撮影はOKだったが、今は監視員が常時警護している。ゲルニカの存在を知ったのは1960年代の前半。作家の有吉佐和子の夫・神彰氏社長の「アート・フレンド・アソシエーション」が企画したゲルニカ展(デッサンや写真)が名古屋で開かれた時のこと。推測だが、現在この美術館に陳列されているデッサンが陳列されたのだろう。
 1925年に描かれたサルバトーレ・ダリ若年の作品「窓辺の少女」が印象に残る。後姿の少女が湖を眺めている具象画だが、シュルーリアリズムの「ダリの絵」からは想像できない清清しい作品。
 巨匠の若い頃の作品、即ち画風が確立してない頃の作品を見ることは楽しみであり驚きである。多くの場合作者の天才ぶりに触れることができる。今回の美術館巡りでも前述のダリの外、バルセロナのピカソ美術館にあるピカソ15~16歳の時の作品「初聖体拝受」、「科学と慈愛」は「ゲルニカ」を描いたピカソの作品とは思えない。教会や病室の重々しい雰囲気が画面から伝わってくる作品だった。
 ティッセン・ボルネミッサ美術館のコレクションは個人としてはエリザベス女王に次いで世界第2位。16世紀のイタリア美術からスペイン現代作家まで多種多様。印象派の作品も数点ある。
 エゴン・シーレの母親の故郷チェスキ-・クルムロフを描いた作品。エドワルドムンクの若き頃の作品など、楽しめる美術館だ。
 エル・グレコを観るならトレドの町。小さな町のあちこちでグレコに出会える。サント・トメ教会には「オルガス伯爵の埋葬」がただ一点展示されている。部屋は小さく、この作品を見るために観光客は順番待ちの状態。入場料も必要である。
 カテドラル内の聖具室は美術館になっており、グレコの「聖衣剥奪」の朱色の衣服画ひときわ目立つ。兵士に衣服を剥ぎ取られウキリスト受難の場面。グレコの最高傑作の一つ。サンタ・クルス美術館には22点のグレコの作品がある。「聖母受胎」、「聖母昇天」の代表作は日本で開かれているグレコ展に貸し出し中でお目にかかれなかった。
(こまつ・ひろふみ)
 
 

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