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世界の中の日本 -ハンガリーと日本の大学間交流-
佐藤 紀子


 「複雑多様化する21世紀の世界において日本人はどのように行動するべきか」、「女性が社会でリーダーシップを発揮するためにはどのような課題を解決していかなければならないか」
 これらの問いへの答えを求めて3月6日から12日まで城西大学、城西国際大学の大学院生・学部生30名がブダペスト商科大学(BBS)で研修を受けた。
 BBSと学校法人城西大学は、2007年から留学生や日本語教育実習生の受け入れを相互に行っている。BBSではマルチナショナルなメンバーによるチームビルディングの実践的トレーニングとなる協働作業を経験することを特に重視している。今回新しく企画された「世界の中の日本」研修でも、学生が行動を共にしながら協働して成果発表を準備した。
 3月6日昼前にブダペストに到着した研修団は、ホテルで休憩する間もなくすぐに開会式に臨んだ。その後、筆者による第1回目の講義「言語・文化・コミュニケーション」を聴講。学生達は、「日本人とは」、「日本文化とは」という異文化コミュニケーションの根幹ともなる問いかけに長旅の疲れも見せず活発に応じてくれ、今回の研修にかける意気込みが大いに感じられた。夕食は大学近くの地元レストラン。これぞハンガリーというフルコース大盛り料理をなんなく平らげた女性が何人もいたのにはさすが女性リーダーの卵と感心した。
 翌7日は、女性リーダー育成奨励生9名がクリスト・エーヴァBBS学長(全国国立大学総長会議共同議長)にインタビュー。女性がリーダーシップを取るためにどのような課題を解決しなければならないか聞き取り調査した。学長は、「女性がリーダーとして成功するには、短期長期の確かなキャリアプランの策定、人生への柔軟な対応、情熱、周りの人と情報を共有し協力し合うこと、責任感と精神的肉体的なタフネス、そして自分自身を信じることが必要だ」と語った。外見からも少々「鉄の女」の風貌がある学長の言葉は、職業人、妻、母親という役割を柔軟にこなしながら活躍してきた学長そのもののように感じられ、大変説得力があった。
 その後、美術史家のゲッレール・カタリン氏の講義「19世紀から20世紀にかけてのハンガリー美術におけるジャポニズム」を聴講。100枚にも及ぶスライドで日本の浮世絵がハンガリー美術に与えた影響をじっくりと学ぶことができた。午後は市内に出て世紀末建築様式などのフィールドワーク。8日は、午前中メラニー・スミス氏(BBS)の「ハンガリーにおけるヘルスツーリズム」とセーカーチ・アンナ氏(BBS)の「ヨーロッパとハンガリーにおける日本とは」を聴講。午後は、ゲッレールト温泉を訪れ、ハンガリーのヘルスツーリズムを実際に体験した。これらの成果は「日本とハンガリーの建築様式・美術についての比較研究」という発表にまとめられた。
 9日は午前中シュディ・ゾルターン元駐日大使による「日系企業のハンガリー進出」と盛田常夫氏(立山研究所)の「欧州経済と労働問題」の講義を聴講。いずれの講義でも学生達から多くの質問が出され、研究意欲の高さが感じられた。午後からは、ハンガリーにおける日本文化の受容を知るために工芸美術館とホップ東洋美術館を学芸員の案内で見学。工芸美術館最上階にある収蔵庫で一般には非公開の日本の工芸美術品の数々を鑑賞する機会を得た。また、10日には美術館で日本をよく知るハンガリー人6名とハンガリーに住む日本人4名にインタビューし、「世界の中の日本と日本人、個の確立を目指して」と題した報告にまとめた。
 
|ハンガリー人学生日本語によるスピーチ|
 そして、いよいよ11日。山本忠通駐ハンガリー大使、安田国彦一等書記官、三宅翔太国際交流基金ブダペスト事務所副所長をお迎えし、成果発表会が催された。まず、BBSの学生が今年ハンガリーで初めて放映された大河ドラマ「篤姫」についてフェイスブックでハンガリーの若者にアンケートした結果を「世界の中の日本-『篤姫』とハンガリー」という題でまとめ、日本語でスピーチした。その後、参加者達は5日間毎日寝る間も惜しんで準備した成果報告を緊張の中にも堂々と英語で発表した。
 最終日は外務省にオルバーン・アニタ、エネルギー安全保障担当大使を訪ねた。外務省最上階にあるパノラマルームで迎えて下さった若くエネルギッシュな大使からは、1時間にわたる懇談会の中で、女性がリーダーになるためには中長期の目標をしっかりと定め、その目的に向かって全力で行動するようにとの心強いメッセージをいただいた。学生達にとって忘れがたい思い出になったと思う。 
日本文化の力、日本文化を熟知した国際人というソフトパワーこそ、これからの日本に必要とされるパワーである。今回の研修は、個性や創造力が評価されるハンガリー社会で日本文化が賞賛されてきた歴史を知ることで、多文化グローバル社会で能力が発揮できる日本人とはどのような人材かを考えるよい機会になったと思う。

 尚、本プログラムに関しては学校法人城西大学のHPでも詳細が報じられている。
 http://www.josai.jp/news/2013/20130305.html
(さとう・のりこ ブダペスト商科大学)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.