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医療と自己責任
盛田 常夫


痛風の炎症に悩む
 私は高校時代から血圧が高く、30歳過ぎて間もない頃から痛風の炎症に悩んできた。ともに遺伝的な疾病だと思うが、とくに60歳を過ぎてから痛風の炎症が頻発するようなって困った。
 ハーフマラソンで体を酷使した後遺症でもあるが、怪我で走るのを止めた途端に、膝に炎症が頻発し、七転八倒することになった。膝に痛風の炎症が出ると、膨れ上がって足を動かせなくなる。国立病院の救急窓口に行っても膝の専門医がいる確率はゼロに近い。専門医でないと水の抜き方を知らないから、たいへんな目に遭う。健康保険が効く病院は、コネがない限り、すぐに診察してもらうことは不可能に近い。だから、民間のクリニックに予約を入れ、水を抜いてもらうのだが、専門医の診察日は決まっているから、すぐには診てもらえるとは限らない。その場合はひたすら痛みを我慢して、1〜2日待つ。ハンガリーで医師の診療を受けるのは簡単でない。
 尿酸生成抑制はアロプリノールという化学成分を使うのだが、腎臓への負担が大きいことが知られている。この薬剤はザイロリックという商品名で流通しており、痛風と言えばザイロリック、炎症の予兆が出ればコルヒチンを服用するというのが一般的な処方だった。しかし、私の場合、ザイロリックはあまり効かなかったし、炎症が出てしまうとコルヒチンもほとんど効かない。腎臓機能の悪化を招いたので、常時の服用を控えていた。だから、定期的な痛風炎症に苦しむことになった。

痛風症の新薬
 たまたま東京のクリニックで診察を受けた折、高尿酸症の新薬が出たと聞かされた。帝人ファーマの「フェブリック」である。痛風治療薬としては40年振りの新薬になる。これを服用しだしてから痛風の発作(炎症)が止まった。少なくともここ4年以上、痛風の痛みから解放されている。さらに、7〜8年もあいだ、右足甲に残っていた恒常的な痛みが、完全に消えてしまった。ヨーロッパではイタリアの製薬会社が帝人ファーマとライセンス契約を結び、Adenuricという商品名で流通している。ただし、日本では1日1回の服用量が20mgか40mgであるのにたいし、Adenuricは80mgと120mgの二種類の錠剤で販売されている。私は20mgで、しかも間引きしながら服用して効果があるから、ヨーロッパで日本人がこの薬を服用する場合には、錠剤を割って服用する必要がある。体格の違いがあるとはいえ、欧米の服用量は日本のそれに比べて非常に高い。要注意である。
 いかに効能がある薬とはいえ、副作用のない薬は存在しない。西洋医学の薬剤は基本的に化学薬品である。特定の因子に作用することによって、当該の疾病を引き起こす要素やメカニズムを阻害する。その特定因子の阻害効果が、正常に機能している人体の他の器官や作用に悪影響を与えるのが副作用である。服用量と服用頻度によって、副作用の発現は異なる。服用量が大きくなり、服用頻度が増せば、副作用のリスクも高まることは言うまでもない。

血圧降下剤
 私の場合、降下剤を服用しないと、180mmHgまで上がる。ただ、経験上、ノルバスクは降圧効果が低く、10〜15mmHg程度の降圧効果しなかない。かといって、定期的に高い服用量を維持するのは腎機能の低下を招くので、医師の提言を受けず、自分なりに間引きして服用していた。
 こう書くと、医学を否定するかのように聞こえるかもしれないが、医師は種々の薬剤の副作用や複数の薬剤の相乗副作用について、何の責任もとれない。「この薬は一生飲んでください」という医師を私は信用しない。既述したように、所詮、薬剤は化学薬品である。それは人体機能の一時的な不都合を除去するために、一時的に服用するから薬なのであって、それを常用してしまえば、化学薬品の補助なしでは生きていられない片輪な生体になってしまう。
 人体は複雑な自己制御システムをもっており、正常機能への回帰を制御する高度なホメオスタシス(恒常性)機能をもっている。もしこれが失われれば、生体は生命の危機にさらされる。何らかの原因でホメオスタシスへの回帰が阻害された時に一時的に必要なのが、医療である。だから、医療は手術であれ薬剤投与であれ、ホメオスタシスの回復を助けるための、人体機能への一時的な「介入」にすぎない。ホメオスタシスが回復されれば、早急に治療を終える必要がある。さもないと、副作用の影響が大きくなるか、薬なしでは生きられない片輪な体になってしまう。
 東京のクリニックで新たに処方された降圧剤が、「アジルバ」と「アムロジン」の組合せである。私の場合、この組合せだと、収縮期血圧は150mmHg程度に抑えることができる。それでも、私はこの薬剤を常用しない。かなり間引きしながら使っている。
 血圧降下剤とフェブリックを一緒に飲むこともしない。まとめて何種類もの薬を一緒に飲んでいる人は多いが、これほど馬鹿なことはない。まとめて服用された化学薬品が胃や腸で、どのような相互化学反応を惹き起こしているのかを想像しただけでも恐ろしい。こんな薬の飲み方は、「百害あって一利なし」だ。
 そもそも、高血圧症の患者が日本人の半数もいるという状態がおかしい。何万年もかけて進化してきた人間の半数が病人であるはずがない。人為的な操作が数多くの病人を人工的に作り出しているはずだ。正常血圧の範囲を少し狭めるだけで、年間何百万千万人の患者が作り出される。1987年までは180/100mmHgの範囲であれば問題なかったのが、2004年に140/90mmHgに下げられたために1000万人以上もの患者が作り出され、現在では130/85mmHgを基準としているために5000万人を超える人が高血圧症と認定される事態に陥っている。
 この結果、降圧剤の薬剤市場は、日本では年間1兆円の最大の薬剤市場になった。製薬会社と医師がグルになっているのではないかと勘ぐられても仕方がない。薬は勤勉に服用するものではないはずだ。調子が悪いときだけ、服用するから薬で、毎日服用してしまえば毒である。最近、厚労省から血圧降下剤の副作用の改定指示がでて、私が服用しているアジルバやアムロジンでも、稀にとはいえ、重症の副作用が起きる場合があることが記載されるようになった。薬漬けにならないように、自己防衛することが必要な時代である。

(もりた・つねお 「ドナウの四季」編集長)
 
 

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