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また必ず戻ってきます
ハンガリー科学アカデミー・音楽学研究所
岡本 佳子

 
 私は現在、東京大学大学院で音楽学を専攻しており、執筆中の博士論文研究のために昨年の9月からハンガリーに留学をしています。大学に通うのではなく、ハンガリー科学アカデミーという国立の学術組織の「音楽学研究所」に受け入れしてもらいました。ブダの王宮の丘にある音楽史博物館と同じ建物、と言ったらピンと来る方も多いのではないでしょうか。あの博物館は、じつは研究所内の一組織です。私がお世話になっているのはバルトーク・アーカイヴという部署で、窓からはドナウ川の美しい景色を見渡すことができます。
  実技ではなく、音楽の研究とはいったい何をするの、とよく聞かれます。私の博士論文は、バルトークのオペラ《青ひげ公の城》についてです。ほかのオペラとはあまりに異なる雰囲気に圧倒され、さらに魅了されてしまったことが研究することになったきっかけです。いまは、作曲された20世紀初頭のブダペスト文化、とりわけ劇場文化の関係から作品を分析し、解釈しなおし、今まで誰も気づかなかった新しい側面を見出すことを目指しています。
  とはいっても、具体的な作業は、ほかの研究者が書いた本を読み(もちろん日本語のほかに英語、ドイツ語、ハンガリー語……)、作品の手稿譜を吟味して作曲のプロセスを追い、分析し、当時の関係者の自筆の手紙を読み(見ただけで泣きたくなるような字で書いてあるものもあります)、それらをまとめ、整理し、新たな視点を考え、ようやく何か成果(のようなもの)ができたら研究所のヴィカーリウシュ・ラースロー先生に相談して……の繰り返しなので、くじけそうになることも多く、ややもすればあまり誰とも交流しないような状況になってしまいます。
  特定の授業もないなか、そうならずに済んでいるのは、研究所の先生や研究員の方々のやさしいお心遣い、つい出かけたくなるような魅力的な街並み、数知れない劇場や音楽のプログラム、いつも励ましてくれる友人知人、そしてほかの留学生との交流のおかげです。日本人ではとくにモホイ=ナジ芸術大学でアニメーションを描いている板橋晴子さんや、リスト音楽院の音楽学学科に在籍中の中原佑介さんなど、ハンガリー人と同じ土俵で堂々と活躍している彼らの姿からは本当によい刺激をいただいています。専門はもちろんのこと、ハンガリー語ももっとがんばらなくては!と励みになり、自分の研究のほかに、学会や他大学の授業への参加・聴講を行わせてもらい、語学学校でも勉強し、もちろんコンサートにも通って……と、書いている自分でもびっくりするくらい盛りだくさんの日々を過ごしています。
  私にとっての初めての留学も、はや半年。そして奨学金の関係で、この生活も残すところあと1ヶ月ほどになってしまいました。最初は滞在期間が短いことに不満もありましたが、自分ももうすぐ博士課程3年目ですので、決められた時間内に課題を終わらせることも大事だと考えています。無事に博士論文を完成させ、大学院を修了し、今度は別の研究の長期滞在のために再度ハンガリーへ戻ってこれるよう、帰国後、東京でもがんばりたいと思います。
(おかもと・よしこ)
 
 

Web editorial office in Donau 4 Seasons.