朝、7時20分。今日も出勤する夫の車で子供達も出掛けて行った。1日の内、朝は一番慌ただしく、また一番我が家に怒号が響き渡る時間だ。子供達を起こし身支度を整えさせるのと並行して、朝食準備、お弁当作り、そして夫を起こす。もう少し余裕をもって早起きすればいいのだろうが、なかなかできない自分が恨めしくもある。
 我が家には3人の子供がいる。ハンガリーに来た当初、長男5歳、長女3歳、次女1歳であった。様々な方のご尽力により、来洪した年の9月からハンガリーの幼稚園に通っている。日本では1年間長男が幼稚園に通っていたので、両園の違いに驚き戸惑うことも多かった。
 まず、午前のおやつ。パンや果物が多いらしいが、初めて聞いた時は驚いた。我が子達も朝食をしっかり食べていかなかった日には、園で二度目の朝食を取っているらしい。
 また、園からの連絡事項はプリントを配布して周知を図るのではなく、掲示のみである。行事の日程や持ち物などのお知らせだけでなく、支払いや手続きのことまでもそうなので、うっかり見逃すと大変なことになる。当然、掲示物はハンガリー語。私にはその場では理解できないことが多く、インターネットで調べたり二か国語が堪能な方に助けて頂いたりしている。子供達の送迎の際に、掲示物を携帯電話のカメラでパシャパシャと撮りまくり、チェックを欠かさないようにしている。
 園の行事も日本では経験しないようなこともある。ハンガリーのサンタクロースは12月の第1週目にチョコレートか鞭をもって来るようだ。日本のサンタクロースと違うので最初子供達も混乱していたようだ。2月にはファルシャングが行われる。その週にクラスでお菓子作りをしたりミニ運動会をしたり仮装パーティーをしたり、みんな楽しそうだ。我が子達は1年目にライオンとクマ、2年目に白ネコとピンクネコの仮装をした。クラスの子達もかなり凝った仮装をしてくる。衣装や小道具の準備が大変だが、嬉しそうな子供達を見ていると、準備の疲れも何もかも吹っ飛んでしまうから不思議だ。

 面白いこともたくさんある幼稚園だが、長男がなかなか馴染めず幼稚園の先生方や周りの方々に迷惑をお掛けした。長男は初めてのことやお友達に対して、自分から積極的に動いていけず、慣れるまでに時間のかかる子だ。加えて来洪する前の1年間、日本の幼稚園に通っていたので、先生やお友だちと会話でやり取りしながら生活する楽しさを知っている。その分、言葉の壁が彼には高く高く感じられたのであろう。この頃のことを思い返すと、日本語しか話せずヒステリックになっている子を相手に、一生懸命関わろうとしてくださった先生方には感謝の思いでいっぱいである。と同時に、親としてもっと長男に何かできたのではないかという思いで胸が痛くなる。そんな長男も今は、日本人学校の2年生。毎日汗臭くなって帰ってくるので、充実した学校生活を送れているようだ。来洪時より身長が15センチも伸び、じわりじわりと私の身長に迫ってくるようになった。身長だけでなく体重も順調すぎる勢いで増えており、本人にとっても親にとっても悩みの種である。
 一方、長女はこちらに来た当初は泣き虫になってしまった。泣く度に先生にギュッとしてもらい、私に慰められ、夫に叱咤される毎日。でも気が付けば、いつの間にやら泣くことも少なくなり、園での話の中でハンガリー人のお友達の名前も出てくるようになった。挨拶や簡単なハンガリー語を覚え、彼女なりに園生活を楽しんでいるようである。知らない人にも積極的に挨拶をしていくので、彼女をきっかけにたまたま居合わせたハンガリーの方達と話をする嬉しい機会にも恵まれる。昨年の9月からは次女も同じクラスに入園したこともあり、ますます「私はおねえさん」という思いが強くなっているようである。

 末っ子の次女は、私が目を離しがちなこともあるのだが、大人がびっくりすることをやる子だ。体や壁、ソファーに落書きをするのはまだ序の口、おしゃれのつもりで自分の前髪や眉毛をはさみで切ったり、歯磨き粉を体に塗りたくったり。その時は大変だったが、今になってみれば笑い話になっている。また、こちらに来た当初は会話もままならない赤ちゃんだったのが、近頃では私のミスを指摘するようにもなり、一丁前気取りである。園に通うようになって1年、帰宅してから園での出来事を嬉々として報告してくれる姿に毎日ほっこりさせられている。

 ハンガリーでの生活をスタートさせて2年半、たくさんの方々に支えられ、様々な経験を経て子供達も大きくなっている。こちらの幼稚園生活の中で得た嬉しかった思い、楽しかった思い、苦しかった思い、辛かった思いは今後の子供達の人生においても有意義な思い出になっていくに違いない。

(よしだ・けいこ ブダペスト在住)