日本のサッカーは確実に変わってきている。南アのW杯では守備的な戦いを余儀なくされたが、アジア杯では激しい打ち合いに転じることができた。ほとんどのゲームで相手に先行されながら、ゲームをひっくり返すザック・ジャパンは頼もしい。今の代表チームは守ることより、点を取ることに意識が向いている。それをやり遂げるタレントが揃いつつある。
 韓国戦で本田圭祐が失敗したPKをきっちり決めた細貝や、カタール戦のゴール前で香川がファール状態で倒され、そのこぼれ球を押し込んだ伊野波はともに代役で登場した選手で、しかも伊野波は右サイドバック。ふつうは前線にいるはずのない選手がゴールを決めた。ビデオで確認すると、香川が中央からゴール前へ切り込んだ時に岡崎も一緒に並走したが、ガラ空きの右サイドには伊野波一人が3トップの形で陣取っていた。ペナルティを食らって一人少ない日本チームのサイドバックの位置取りではないが、細貝にしても伊野波にしても、出場したゲームのワンチャンスをものにして代表に定着したいという貪欲さがあった。PKのこぼれ球に反応した細貝は最初からそれを狙っていたという。意識的にペナルティエリアのやや後方に立ち、そこから勢いを付けてこぼれ球に向かうので、ライン上に並ぶ相手選手より一瞬早くボールに触ることができるのだ。
 それにしても、カタール戦の勝利は香川の個人技に頼ることが大だった。ヴァタル・エリア近くからドリブルで相手ディフェンスを切り裂くすばしっこさは、メッシに似ている。メッシ同様、香川も体が大きくないから、二人の姿が重なる。
 アジア杯に出場しなかった若手で、世界で活躍できる才能をもつ選手がいるのは楽しい。名将ベンゲル監督に見染められ、アーセナルと5年契約を結び、すぐにオランダ・フェイエノールトにレンタルされた宮市亮はまだ高校3年生。レンタル契約が済んで早速、2月のゲームにスタメン出場を果たし、ゴールこそなかったものの週間ベストイレヴンに選ばれた(YouTubeで彼のプレーを見ることできる)。続く第2戦目で先制点を決め、二週続けてベストイレヴン。しかも、週間ベストゴール賞のおまけまで付いた。衝撃的デビューとしか言いようがない。オランダリーグのレベルは欧州のトップリーグに比べて一ランク落ちるとはいえ、あの本田圭祐ですら、オランダ2部リーグ止まりでロシアリーグへ移った。ところが、1月の高校選手権に出場していた18歳になったばかりの初々しい少年が、名門フェイエノールトの救世主になりつつあるのだ。当地のファンはロナウジーニョにかけて「リョ(亮)ジーニョ」と名付けたようだが、体の大きさもプレースタイルもC. ロナウドに似ている。180cmを超える体躯、百米10秒台の俊足でドリブル突破する宮市はロナウド・タイプだろう。待ちに待った大型FWである。
 同じ18歳の希望の星にガンバ大阪の宇佐美貴史がいる。宮市に一歩先んじてJリーグデビューを果たしたが、宇佐美の欧州リーグ移籍も時間の問題だろう。多くのクラブがかなり前から宇佐美に注目しているのだから。FWのタレントが不足していると言われる日本だが、タイプが異なる若い選手が成長しているのは心強い。カターニャの森本は風貌もプレースタイルもブラジルのロナウド。これにメッシ風の香川とC.ロナウド型の宮市が加わり、さらに複数のポジションがこなせる多能型の宇佐美が加わる近未来の代表チームの攻撃力は世界で見劣りしない。サイドバックに長友や内田、安田などのタレントがいるから、問題は闘莉王と中澤が抜けるセンターバックの人材である。VVVフェンロー所属の吉田麻也やFCケルンに移籍した槙野智章の成長に期待したい。
 長友のインテル移籍について、TVスポーツ解説コーナーで張本勲が「巨人に入るほど凄いことだ」と説明したようだ。巨人コンプレックスと、サッカー界にたいする無知をさらけ出した張本だが、その長友が頑張っている。イタリア・セリエAでは中田以外に成功したサッカー選手はいない。その中田もペルージャを出てからは不動の地位を確保できなかったから、日本人プレーヤーにたいするイタリアの評価は厳しい。インテルのサイドは左にルーマニア代表のキヴ、右に世界一のサイドバック、マイコンが定着している。だから、長友はユーティリティ・プレーヤーとして、スーパーサブか負傷交代要員で、本職の左だけでなく右でも使われる。その長友がジェノア戦でゴールを挙げた。点差が開いていたこともあって、自由に攻撃参加できたことが大きい。中盤から駆けあがって、まるでFWのようにゴール前に陣取ってボールを要求し、大男に囲まれながら体を反転させて蹴り込んだ。長友に期待されているのはゴールではないが、ここで点をとって目立たないと後がないというがむしゃらな積極性がゴールを生んだ。次戦のチャンピオンズ・リーグ8強進出をかけた対バイエルン・ミュンヘン第二戦(3月15日)、敗色濃厚な残り3分(ロスタイムを含めると7分)でコートに送りだされた長友は、1分後にロングボールに反応してゴール前に突進し、相手DFがエトーのボールコントロールをチェックするのをかく乱し、パンデフのゴールにつながる動きをした。この時、前線に走り込んだのはエトーと長友だけで、彼らがボールに絡んで左サイドでDFを引き付け、長友がシャドウになってエトーが中央へサイドステップして、空いている右サイドに走り込んできたパンデフにボールを流し、これを蹴りんだボールが決勝点になった。これこそスーパーサブの値千金の仕事だ。
 それにしても、Jリーグの監督や代表スタッフたちは、どうして香川真司や宮市亮の能力を過小評価してしまったのだろうか。プロ契約制度の穴を欧州のスカウトに突かれているのではないか。それに比べ、欧州の名将は選手の能力を見極めるのがうまいし、クラブも才能ある若い選手を発掘し、大きく育てて他のクラブへ移籍させるビジネスを展開している。日本の若い選手が無償か、僅かな移籍金で欧州へ流れていく。移籍金でチームを強くする経営力がないと、クラブに体力を付けることはできない。クラブ経営者はもっと選手を見極める眼力をつけ、経営能力を高める必要がある。