聞いてください。私はハンガリーに、英語を勉強しに来ました。なぜ、どうしてと皆さんが疑問に感じると思います。確かに、ハンガリーは英語が母語ではないし、文化についても慣れ親しんだものではありません。だから、勉強はおろか、生活することですら不自由なのでは、と考える方もいるでしょう。けれど私は自信を持って言えます、ハンガリーは英語留学を考えている人にとって最高の場所であるということを。
 まずは自己紹介。私は明治大学国際日本学部国際日本学科に所属する2年生で、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学人文学部英語専攻に約1年間の協定留学プログラムの留学生として来ました。学部の理念として、日本の文化を学びそしてそれらを世界に発信し日本の良さ、素晴らしさを広めていくとあります。その実現を目指して日本の大学では、例えば日本の歴史、文化、経済など様々な方面から日本とはどのような国なのかを研究し、その一方で世界との交流を図るための英語学習を進めていました。もともと留学への興味はあったのですが、その時の私は「留学と言えばアメリカ」という固定観念に縛られていて、ハンガリー、ましてやヨーロッパへの留学など微塵も考えていませんでした。けれど私自身、アメリカにとりわけ興味があったわけではなかったので語学の勉強以外にその国へ行く理由が見つからず、それが留学へのモチベーションを下げる要因になっていたかもしれません。そしてあるとき、ふと疑問に思ったことがあります。なぜアメリカでなければいけないのか、アジア、ヨーロッパ諸国でも留学は可能なのではないのか。グローバル化の影響で、今英語は世界の標準語となっています。つまり、それは母国が英語ではない国の人たちでさえ英語が話せるということで、裏を反せば世界中どの国でも英語を勉強することができ、留学する国としてアメリカだけに固執する必要がなくなったということです。
 そこからの私は今までの遅れを取り戻すかのように英語学習に精を出し、また留学に関するあらゆる情報を集められるだけ集め始めました。そこで見つけたのです、ここハンガリーを。正直に言うと、最初はハンガリーと聞いてもいったいどこにあるのか、まずハンガリーという国はいったいどんな国なのか全く知りませんでしたし、知る機会もありませんでした。けれど、調べていくうちにハンガリーの魅力にそれこそどっぷりはまってしまい、ユーラシア大陸の食文化のるつぼと呼ばれるハンガリー料理、様々な国の文化・歴史が息づく街並、オペラなど一流の音楽と気軽に触れ合える環境、これらすべてが私の心を掴み、またそれらは私にハンガリーへの留学を決断させるのに十分すぎるくらいでした。今思い返してみて、この時の出会いというのはもしかしたら運命だったのかもしれません。これが私のハンガリー英語留学の第一歩でした。
 ハンガリーでの留学が始まってからというもの、それこそ今では単なる話のタネの一つや二つになることですが、当時の私にとって乗り越えがたい大きな困難に幾度となく直面してきました。とくに大学の授業。私は人文学部英語学科に所属していて、各国の留学生とではなく現地のハンガリー人の学生さんたちと一緒に英語を学んでいます。授業も英語の基礎からきっちり勉強するものから、英語で様々な分野(文化研究、観光事業等)まで多種多様です。一番驚いたことは、英語が母国でないにも関わらずその学生さんたちの英語能力が非常に高かったことです。彼らに聞いてみると、英語を勉強している年数は日本人のそれとほぼ変わらないようですが、明らかに彼らと私との間には大きな隔たりがありました。それ故に、慣れ始めの頃は授業中ただ座っていることしかできず、彼らのすごさに圧倒されたまま終わってしまうということがほとんどでした。自分の思うようにできないことがとても悔しく、授業が終わるごとに気落ちし、時には悔しさから泣いてしまったこともあります。けれどこの気づきというのは日本では絶対に得られないものだし、この世界との「差」を自ら経験するために留学を決心したのも事実です。異国の地での大学生活は日々私に驚きと試練を、またそれを乗り越えたときの大きな感動と満足感を与えてくれます。留学が始まって約3か月経った今、正直まだ授業にやっとのことでついていけているといったレベルではありますが、そんな中で着実に成長している自分を日々実感しています。
 残りの約6か月の間、私はこれからも様々な困難にぶち当たることでしょう。そのたびに落ち込んで、努力して、そして乗り越える。この過程を一歩ずつ踏みしめながら生活することはこの留学をより有意義なものにするために必要不可欠なことです。確かに簡単なことではありません。けれどそれに挑戦していくことこそ、私の中の殻を破る唯一な方法だと思うのです。

(たかはし・ゆきな)