「大盤振る舞い」という言葉が、まさに相応しかった。オルバーン首相が 2月 10日に発表した、 7項目から成る新家族政策である。例として、 3年以内ごとに 3人出産すれば事実上 1000万 Ft(1フォリン=約 0.4円)トを得られる、祖父母への育児手当などが含まれる。それもこれも、人口減少に楔を打つため。今月は新政策について。

7項目の措置
 早速、発表された各項目を見ていこう。

(1) 9年で 3人産めば 1000万 Ft?
 最初の措置は、女性が結婚する際、国から最大 1000万 Ftの融資を受けられるというもの。
「融資」ではあるが、返済は「無利子」。そして、出産ごとに返済が猶予され、元金も棒引きされていく。
 ・第 1子出産 ⇒返済を 3年間猶予。
 ・第 2子出産 ⇒さらに 3年間、返済を猶予、および元金 3分の 1を棒引き。
 ・第 3子出産 ⇒ローン残高をすべて返済免除。

 つまり、理論上は、本年 7月 1日の施行直後から、 3年以内ごとに 3人産めば、1000万 Ft借りても返さなくてよいことになる。
 ハンガリーの平均給与は、税込みで月約 32.7 万 Ft、税引き後で約 21.7 万 Ft ( 2018年 1.11月、中央統計局 ) のため、平均年収の 2.5 倍以上にも相当する額になる。
 借入金の使途の縛りはないので、何に使ってもよい。既婚者でも借り入れで可能だが、その場合は、 7月 1日以降に出生した子どもから対象になる。
 借り入れの要件で重要なのは、最低 3年間は正規で就労していること(医療社会保険料を納付していること)、また、 5年以内に出産しなければ、「利子付き」で返済しなければならなくなる。

(2) 住宅購入支援プログラム( CSOK)の拡張
 CSOKは、2016年 1月から開始したマイホーム購入支援プログラムで、今回はそれを拡張することになる。
 CSOKにはいくつかの支援の形式があり、扶養対象の子どもの数が多いほど、手厚くなっている。近年の住宅建設ブームは、この CSOKにかなり支えられている。
 政府は昨秋、住宅購入・建設に対する低利融資の上限を、子ども 2人の場合は 1000万 Ft、3人の場合は 1500万 Ftまで引き上げ。今回の発表では、新築のみに限らず、中古住宅の購入も融資対象に含めることになった。また、購入住宅の上限 3500万 Ftを撤廃した。

(3) 出産ごとに、国が住宅ローン返済肩代わり
 これも、既存の制度を拡充するもの。子どもの数に応じて、住宅ローン残高の一部を国が肩代わりして返済する。肩代わり規模は、以下のようになる。
 ・第 2子出産後には 100万 Ft
 ・第 3子出産で 400万 Ft
 ・第 4子以降は 1人につき追加で 100万 Ft
(現行制度では 3人出産で 100万 Ft肩代わり、それ以降 1人に付き 100万 Ftずつ)

(4) 4人産めば一生、個人所得税なし
 4人以上出産した女性には、生涯、個人所得税を免除する。(養子も対象)この措置は、既に 4人の子どもを出産している女性にも適用になる。2020年 1月 1日から。
 現在の個人所得税率は一律 15%。平均年収 (約 400万 Ft)を得ている女性ならば、年に 60万 Ftも浮く勘定になる。ただ、 4人出産した後もずっと働かない限りは(もしくは何らかの所得がないかぎりは)、この恩恵を得ることはできない。

(5) 7人乗り車購入には 250万 Ft補助金
 子ども 3人以上の家族が、7人乗り乗用車を購入する場合、 250万 Ftの補助金を支給する(返済不要)。
 人材省(家族政策所管)によると、市民が 4人目の出産を躊躇するのは、「移動が大変」というのが理由の一つ。そうした阻害要因を取り除くのが目的。 2019年 7月 1日から施行になる。

(6) すべての子に保育園を
 ハンガリーでは、3歳以上のすべての幼児が幼稚園(.voda)に行かれるようになっている。一方、 0.3歳児向けの保育園(B.lcs.de)では、 2.1万人分の受け皿が不足。そのため、 2019年から段階的に新規で建設、既存保育園の拡張などをして、 2022年にはすべての乳幼児を受け入れられるようにする。 (現在の施設は計 4.9万人分)

(7) 祖父母にも手当
両親が仕事に行っている間、おばあちゃん・おじいちゃんが孫の面倒を見る場合、育児手当“Gyed”を支給する。Gyedは出産後に母親もしくは父親に給付される「育児手当」で、条件は過去 2 年で 365 日以上、正規就労し医療社会保険料等を納付していること。支給額は出産前の給与の 70%。ただし、上限は最低賃金 x 2 x 70 %になっている。 ( 2019年は具体的には 208,600 Ft/月)給付期間は、子どもが 2歳になるまで。
 「おばあちゃん Gyed」は、 2020年から開始見込みだが、詳細はまだ不明である。

人口減少はどれくらい深刻なのか
 ハンガリーでは、これまでにも各種の手厚い家族優遇政策があった。しかし今回、これほど大胆な政策を打ち上げたのは、他でもない、人口減少に止まる気配がないため。
 人口は、1980年代の 1070万人をピークに、毎年 3.4万人減少。2018年年初時点では 977万人まで低下した。欧州統計局(Eurostat)は、このまま進めば、 2080年には 869万人まで減少すると予測している。(予想は 2016年夏発表、2015年までのデータを元にしている。)
一方、2017年の婚姻数は 50,572組、出生数は 91,577人、合計特殊出生率は 1.49人だった。
ハンガリーの現政権は、移民は断固拒否の方針を貫いており、人口問題はあくまでもハンガリー人の出生数引き上げで解決する所存だ。2030年までには(つまりあと 10年で)、合計特殊出生率を 2.1人までに増加させるという野心的な目標を掲げている。
 国内のメディア Index.huの試算によると、今回の措置と既存の措置を最大限に利用した場合、 10年で実質、5500万 Ftも得をすることになる。
 もっとも、これは、大卒の女性が 3年就労後、結婚して、8年で 4人出産した場合。あくまでも一つの「モデルケース」だ。人生それほど単純ではないし、計画通りにも行かない。育児は大変だしお金もかかる。
 もう一つ特筆しておくべきことは、今回の措置はこれまで同様、基本的には住宅や車など大きなものを買ってこそ恩恵を受けられるようになっている点。また、これまで正規で働き、また出産後も生涯働いてこそ最大の恩恵を受ける。
 こうしたことから、今回の措置が出産の追い風になることは間違いないだろうが、「どれくらい」となると見通しづらい。
 一方で、家族政策で多くの人が支援を受ければ、それだけ国への負担は重くなる。国内銀行最大手 OTP Bank調査部の試算では、これらの措置の結果、財政赤字は年間 2000.3000億 Ft増加し、対 GDP比で 0.5ポイント上昇しうる。(ただし、詳細条件や、実際の支援を受け取る人の人数による)
 野党らは、これは 19 年 5 月に欧州議会選挙を控える中、今までのように「移民の脅威を煽り立てる」戦略が通用しないため、与党はバラマキ政治に出たと批判している。もっとも人口減少問題につては、野党らも、有権者の心をつかむほどの案は打ち出せていない状態ではあるのだが。

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(わしお・あこ)