高騰する移籍市場
 新しいシーズンに入った欧州サッカー界。夏の移籍市場では巨額の大金が舞った。筆頭はレアル・マドリードに移籍したベイル。移籍金は、実に1億ユーロ。レアルはこの資金捻出のために、ドイツ代表のウジルをほぼ5千万ユーロでアーセナルに売却した。5億ユーロの累積負債を抱えていると見られるレアルが、なぜ、これほどの大金を使って次々と選手を抱え込むのだろうか。ふつうのビジネス感覚ではとうてい理解不能である。
 今年の夏の移籍金額ランキングで30位ですら3千万ユーロというから、サッカー界の移籍市場は賑わいを見せている。ところが、モスクワチェスカの本田は冬のラツィオとの商談不成立に続き、今夏もインターミランとの移籍交渉が決裂した。インターミランが提示した移籍金額はわずか200万ユーロだが、チェスカの要求額とは3~400万ユーロの差だったから、他の移籍交渉に比べれば端金の差。誰しも夏の移籍は確実と思っていたら、チェスカが態度を硬化させて、交渉が進まなかった。いかにあと半年で契約が切れる選手とはいえ、あまりに低い提示額に怒ったようだ。
 ラツィオといい、インターミランといい、イタリア・セリエAチームの台所事情は苦しそうだ。数百万ユーロの差額を日本のスポンサーが支援したり、本田の年俸を削って契約金に充てたりするという情報が流れていたが、こういう筋違いの話がまことしやかに流れるほど、セリエAのチーム事情は苦しいのだろう。しかも、本田陣営が先走って、インターミランといろいろな約束をしてしまったことも、チェスカの機嫌を損ねたと考えられる。
 他方、気になるのは、その程度の金額で買える本田に、欧州の他のチームがまったく関心を示さなかったことだ。本田レベルの選手ならいくらでもいると考えているのだろう。それでも、冬の移籍市場で「移籍金がゼロになれば、考えてもよい」というチームはいるだろう。そうなれば、イタリアは避けた方が良い。もうセリエAは凋落リーグだ。数百万ユーロをケチったインターミランに、未練をもつこともないだろう。

プレミアリーグの難しさ
 マンチェスターUの香川をめぐる状況が不明瞭だ。リーグ戦が始まって5試合の時点で、まだ出番がない。リーグ戦開幕直前に、リーガ・エスパニョーラのアトレティコ・マドリードへの期限付き移籍情報が流れた。モィーズ新監督のチーム構想の中では、香川にスタメンが保証されておらず、左MFの二番手三番手の控えの位置づけなのだ。
 ファーガソン監督時代も香川の起用に一貫性がなかったが、主力扱いを受けていた。ところが、モイーズ体制では「控えの控え」という位置づけだ。
 モイーズ監督は香川のプレーをそれほど見ているわけではない。にもかかわらず、香川の起用を回避するのは、ウィングとしてフィジカルが弱いと判断しているからだろう。体力勝負に出てくるプレミアリーグでは、体の小ささが気になるのだろう。身長がなくても、体重があってがっちりしていれば問題ないが、香川はいかにもひ弱な体躯。香川はそのハンディを補うべく、素早いボールタッチと変幻自在の位置取りで、チャンスを演出するのだが、それが生きるのはウィングではない。ファーガソンが香川を取ったのは、パスサッカーという要素を入れて、チームの攻撃に変化を付けるためだったが、新任のモイーズは「ひ弱な香川」を信頼することができず、旧来通りのフィジカルで押すサッカーを続けている。しかも、伝統あるチームを任された重圧から、新しい方向を試すというリスクを冒したくないのだ。
 皮肉なことに、このモイーズ監督の安全路線が、リーグ戦序盤で苦戦を強いられている。5戦を終え2勝2敗1分けで8位に低迷している。とくに第5戦のダービーマッチで、マンチェスターCに4-1で完敗し、交代枠を使い切らず敗戦したモイーズの戦術に厳しい目が向けられている。モイーズがファンペルシー頼りの従来の戦術を続行するのか、それとも控えの戦力を積極的に試して戦術を変えてくるのか、監督としての力量が試される。さらに苦戦が続けば、モイーズ監督の地位は微妙になろう。昨年のブンデスリーガでも、長谷部は10週連続出番がなかったが、監督交代とともにスタメンに復帰した。マンチェスターUでの香川の冷遇が続けば、ドルトムンドへの復帰も視野に入ってくる。
 昨年までサウサンプトンでCBのスタメンを張っていた吉田は、今シーズンは初めからベンチ外の扱いを受けている。吉田も「控えの控え」の位置づけである。サウサンプトンは好調を維持しているから、吉田の出番は当分ないだろう。
 二度の大きな怪我から回復した宮市が、とうとうアーセナルでデビューを果たした。若手育成に定評のあるベンゲル監督の下で、長身快足のFWが順調に伸びてこれば、代表チームの大きな武器になる。

日本人選手が活躍するブンデスリーガ
 ブンデスリーガへの適応に失敗した宇佐美貴史やリーグ戦途中から加わって定位置を見つけられず日本へ戻った大前元紀、ポルトガル2部に移籍した金埼夢生には運がなかった。他方、細貝は控えに甘んじることなく、レヴァークーゼンから移籍してヘルタ・ベルリンの主力選手になった。長谷部も長年在籍したヴォルフスブルグから清武がいるニュルンベルクへ移籍し、ヴォランチの定位置を確保した。
 昨年は控えが多かったハノーファーの酒井宏樹は、今シーズンはスタメンを確保している。シュトットガルトの酒井高徳も、昨年同様、開幕からスタメンで出場している。シャルケの内田やニュルンベルクの清武はチームの主力選手になっており、清武にはプレミアリーグから移籍の誘いもあるほど注目されている。フランクフルトの乾も主力選手扱いだが、90分間任されていないのが気になる。
 出場機会を求めて、シュトットガルトからマインツに移籍した岡崎は、まだ結果がでていない。FWだからゴールがなければ、アピールできない。厳しい定位置争いが続いている。
 これだけ日本人選手がいるブンデスリーガのゲームには、必ず日本人選手を見ることができる。金曜日の午後から日曜日の夜まで、Eurosport2でブンデスリーガの試合を楽しむことができる。

(もりた・つねお)