現在の住まいはブタペストに隣接するチョメルにあることは別稿「収穫の喜びに」記した通りだが、この地を選んだ理由の一つは広江昭久さんがチョメルに住んでいたからである。
 広江さんは36年前にヒナの鑑別師としてハンガリーで仕事を始め、日本人としては最も長くハンガリーで生活している一人である。2002年にはハンガリー在住30周年の記念パーティー
を開き、150人の出席者から祝福を受けた。

 広江さんはブダペストに住居を構え、加えてこの町はずれに牧場を所有している。1.5ヘクタールの土地に300平方のセカンドハウスで毎週末を過ごしている。ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、カモ、ホロホロドリ、ウズラなどの鳥類、馬、羊、やぎを飼育。鑑別師の仕事でハンガリーや近隣のウクライナを忙しく飛び回る傍ら、牧場主としての経営にもあたっている。
広江家の料理で特筆するのは鳥料理。新鮮な鶏肉を使ったグヤーシ、ほろほろ鳥の刺身、ウズラの塩焼きは一度食べたら忘れられない味だ。

 広江さんは鳥取県の出身。海外で仕事をするのが夢で、それを実現させる近道がヒナの鑑別師になることだった。名古屋にある初生雛鑑別師養成所を卒業し、その後2年間ペルーで仕事して、1973年からハンガリーで働き始めた。鑑別の仕事ができなくなったときのためにと、17年前新たな事業も始めた。牧場で飼育しているウズラの卵を燻製にし、「金の卵ちゃん」と名づけて高級ホテルやメトロ(スーパー)などに卸し、人気を集めている。
 
 ハンガリー人のエリザベートさんの間には二人の男の子どもがある。長男の友彦さんはネジコという会社を経営し、アルミシステム、パイプジョイントシステムの生産と組み立てや金型の製造を日本からの進出企業に提供している。次男の昭次さんは日本食堂を開くべき目下準備中である。2人とも日本での生活体験を持っており、2つの祖国を結ぶ役割も担っている。友彦さんは大相撲中村部屋に所属して、武双山とは同期。その経験を生かし、現在ハンガリー相撲協会の主要役員を務めている。昭次さんが滞在していたのは横浜の和食店。包丁一本の厳しい修行を経験した。
 
 チョメルの冬は殺風景。樹木は葉を落とし、正に荒野。しかし春ともなれば、その荒野に花が咲き乱れ、アカシアの甘い香りの花が咲き誇る。一度広江さんの牧場を訪ねてみてください。ハンガリーの大自然を実感できるでしょう。