ハンガリーへ来て早3回目の夏を越えました。私は現在ハンガリー国立リスト音楽院に在籍しています。ハンガリーへ留学を決めたきっかけは、現在こちらで師事しているジョルジ・ナードル先生が来日された時、日本で受けた先生のレッスンに感銘を受け、この先生のもとで是非学びたいという思いからでした。初めてハンガリーを訪れたのは、私が中学2年生の時。日本で師事していた先生と共にヨーロッパの各地を周りながらその地でオーケストラと競演させていただくという機会をいただきました。同時に各地でレッスンをしていただける機会があり、それが先生との初めての出会いとなりました。当時、何気なく弾いて頂いた先生の演奏のほんの一瞬出された音で、世界観が変わったことを今でも鮮明思い出します。ああしなさい、こうしなさいではなく、自然に自分の表現したい音楽に気づかせてくれる先生のご指導は私にとって一生の財産になりました。
 2008年の6月にこちらで入学試験を受け、その年の9月から留学しています。こちらに来てみて、生活、文化などあらゆる習慣が日本と大きく異なり、最初は戸惑うばかりでした。まず生活に必要な物がどこに売っているのか、その場所までの行き方など、今まで日本では当たり前のように出来ていたことに感謝を感じながらの毎日でした。さらに、時間観念がだいぶ違っていることに驚かされました。例えば電車やバスはいつ来るか分からない、入国管理局では大行列に並ぶことが当たり前など驚きの連続で、時間に対する日本の正確さを懐かしく思う日々でした。しかしやがて慣れてくるとそれがこの国の人々が持っている寛容さなのだと気づきました。そしてクラシック音楽も日本の感覚のように、特別な芸術ではなく、日常的な生活の一部として人々に親しまれている事を強く感じました。
 今年の4月には、ワルシャワで5年に1度開催されるショパン国際ピアノコンクールに参加させていただきました。滞在期間中には多くの世界的なレベルの同世代のピアニストの演奏を間近で聴くことが出来、自分がどれほど小さな存在であるのか思い知りました。5月にはイタリアで、ショパンコンクールの審査委員長を務められているアンジェイ・ヤシンスキー先生が審査をされておられるマウロ・パオロ・モノポリ国際ピアノコンクールに参加し、それまで経験することの出来なかった美しい装飾が施されたホールで演奏することが出来ました。また、審査後には各国の審査員の先生方から厳しくも温かいお言葉を頂戴できました。先日9月に訪れたオランダでは、3年ごとに開催されるフランツ・リスト国際ピアノコンクールに参加し、各国の同世代のピアニストと話をしたり、沢山の参加者の個性豊かな演奏を聴いたりすることが出来てとても貴重な勉強になりました。こちらで勉強を始めるまで、海外のコンクールで演奏する機会はありませんでしたので、とても刺激の多い経験でした。いずれのコンクールでも感じたことは、それまで日本で経験していた「クラシック音楽は特別な文化」という感覚ではなく、ごく日常的で身近にあり、生活の一部として音楽を楽しんでいるのだということでした。聴衆も演奏家の表現したいことをとても敏感に感じ取り、実に素直な反応を返しているようでした。
 「若い時期に、クラシック音楽が生まれた地の生活を経験することは、必ず音楽に大きな影響を与えてくれる」と、留学を薦めて下さった先生のお言葉を、本当にありがたく感じています。このような素晴らしい環境に身を置けること、そしてそれを理解し助けてもらえる家族、先生をはじめ、全ての方々に感謝しながら、これからも研鑽を積み重ねていきたいと思います。
 
 
 
 
 
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